ぼく流の「人間嫌い」

 みんな、ぼくのことをひとなつっこいとか言うけれど、ほんとは、ひとなんか嫌いだ。
 ひとは、ちっともぼくの言うことを聞いてくれないから。
 頭に来て、壁を蹴って、物を投げて、床をドンドン、思いっきりドンドン踏み鳴らした。
 下の人なんて関係ない。
 だって、下にいるのも、ひとだから。
 ひとなんてみんなキライだもん。
 
 ほんとは好きだけど、ぼくはひとに「期待し過ぎる」んだって。
 「して欲しいなら、先に言うこと聞きなさいよ!」ってママは怒鳴るけど、なんで言うことなんて聞かないといけないの?
 
 「うるさいっ!」
 お姉ちゃんに蹴られたって別に泣くほど痛くなんかないけれど、頭にきたから、ぎゃぁぎゃぁ喚いて、ドンドンとび跳ねた。
 「いい加減にしなさいっ!」ママが、怖い顔で僕を睨みつける。

 なんで?!なんで! 
 みんなキライだ!・・・だけど、みんな、僕に構ってよ・・・!
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テーマ: 散文 | ジャンル: 小説・文学

海へ行く確率50%、会社に行く確率50%

 朝起きて寝床ですぐすることは、イヤホンを耳の穴にぎゅうっと押し込むことだった。
 ・・・・。
 二曲ぐらい聴いてからむくりと起きる。食欲なんてあるわけがない。
 自分の怒りを検証していると、どうも海に行きたくなった。
 どの辺に行こうか。

 会社へと向かうのだろう、急ぎ足で階段を上ってくる人の波に逆行して自分は階段を軽々と下る。
 頭の中ではずっと音楽がぐるぐる回っている。
 
 誰かの態度に対する怒り、よさそうに思えた人の自分に対する態度、いくら言っても聞いてくれない連中、・・・・怒りはどれも、自分が不当に扱われていると思いこむ、被害妄想。
 
 怒りは、外向きだ。
 外に対しての怒りだ。・・・・やっぱり。
 自分は外に、左右されてる。人の態度に左右されてる。
 どうにもならない他人の気持ちに自分の気持ちを丸投げしてる。
 自分の気持ちの責任を放棄してる。
 薬をもらいに行こうか。
 落ち着くかもしれない。
 いや、駄目だ。
 こういう時こそ、踏ん張らないと。
 外に頼り過ぎる。外は自分をどうにもしてくれない。
 せいぜい心に絆創膏を貼ってくれるだけ。
 
 間を開けて座る人々を乗せて、眠たい電車がついた先は、陽のよく当たるコンクリートのホーム。
 駅を出てうねる坂道を下り、上り、海を目指す。
 平日の小さな漁港。町の人々はすでに大方の仕事を終えている、遅い朝。
 新緑が湿っている。
 汗ばんできたころに、背の高いヤシの木が見えてきた。
 駐車場にはおそらくだいぶ前から止められているのだろう軽トラックが一台。
 レストハウスはまだ開いていない。
 建物の脇を通って、小さな展望台へ行く。ざらざらしたコンクリートで形作られた丸太デザインの欄干にもたれて、遠くに目をやる。

 それから、急な階段を下って、海の近くへ。
 ごつごつした、大きな岩、小さな岩。岩と岩の間にたまった海水。
 太陽の光で煌く水面。あたたかい風を頬に感じる。
 緑の苔で滑らないように岩の上をつたっていく。
 
 ひとりでも、幸せな感じ。
 誰かに左右されない、自分が感じること・・・。

 大きく息を吸い込み、吐いて、目を見開く。
 ドアを開ける。
 まだ頭の中で音楽が回っている。

 イメージの中での列車の旅を終え、パソコンの電源を入れた。
 なんてこった。
 どうにもならないと思っていた気持ちはすでに、消えていた。
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越冬人参

 小さな弟、赤ちゃんぽく見えるけど、来年には一年生だ。
 そして私はこの前二年生になったところ。
 
 ちゃぶ台に最初に運ばれてきたのは、人参スティックが少し入った皿だった。
 小さな弟は生の人参が好き。昨日も相当食べてたわ。これは実は、昨日の残り。
 ママは、弟にだけ人参をあげた。マヨネーズが皿の端に少しだけ添えられている。
 真っ先に人参に手を伸ばす弟。バリボリバリボリ食べている。


 「ねぇ。ちょっと!私にも人参一本、ちょうだいよっ!」
 弟がごねるより先に、ママが私に一本、人参スティック手渡した。

 ふん。後で、蹴ってやるから!
 弟を斜め下からきっと睨んで、そう考えてたわ。蹴ってやるって。 
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桃色の夕方

 自転車を走らせながら、帰る方向を見た。
 ビルが桃色に染まっている。

 あ、酔いそう・・・。
 いつも、そう思うのだった。桜の季節の夕方には。
 
 ふーーーっとタメイキをつく。
 今日何度私はタメイキをついたことだろう。
 昨日も何度、タメイキをついたことだろう。

 「ほーら、またタメイキ。」

 え?

 「タメイキばかりついていると、幸せ逃げるよ」

 え?
 そんなことないはずよ!だって息を吐くと、新しい空気が入ってくる。
 意識的に、古い空気を出したい時、私はタメイキをつくのよ!
 と、すばやく心の中で言って、後ろを思わず振り向いた。
 
 タッタッタッ・・・・

 確かに確かに聞こえた、走り去る音。
 誰?

 坂を下っていた私の前方に見えた年配の女性も周りを見回しているではないか。
 このコースには毎日たくさんのジョガーが、様々な目的を持って、あらゆる時間に走っている。
 お年寄りや外国人のジョガーも多い。

 しかし、一体、誰だったんだろうと思う頃には、目の前に季節はずれな感じで広がる落ち葉に、私の意識は向かっていた。
 誰だっていいじゃん。足音は空耳でも、いいじゃん。

 やっぱり、タメイキつきすぎだよね、私。教えてくれて、ありがと。 
 
 
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